この記事は入門編です。DXへの取り組みを進めている、もしくは今後DXを実行したいと考えている経営者の方や情報システム担当者の方に、DXの定義やトレンド化の背景など、DXの概要と、DXのファーストステップとして取り組むべきことについてもご紹介します。
エム・フィールド、モバイルソリューション事業部のYASUDAです。好きな色はネイビーブルーです。現在は、大手通信キャリアのDXに関する部署で位置情報ソリューションに携わっています。
「DX」という言葉は、今では一般的なビジネス用語として浸透したといえるでしょう。しかしながら、本格的にDXに取り組み、効果を上げている企業はわずかしかありません。DXの概念を理解し、適切な取り組みを進めていくことが大切です。
まず最初にお伝えしておきたいのは、「DX」と一言で言っても、ビジネスをデジタル化するための技術や方法は多種多様に存在する、つまり正解や一つの答えはないということです。「おすすめのDXが知りたい!」というご質問が多く寄せられますが、それぞれの企業、それぞれの事業毎にその答えは存在します。
DXは手段であり、目的ではありません。目的はあくまでもビジネスの成功、成長です。
以降では、自社に最適なDXを考える上で必要な一般的な知識を、経済産業省の資料などを使ってご説明いたします。
しかし、自社に最適なDXという答えにたどり着くには、自社のビジネスを俯瞰して考えることが必要という前提を覚えておいてください。
■ DXとは
DXの定義
DXの定義は様々存在しますが、日本のビジネスシーンにおいては、経済産業省の定義によることが多いです。経済産業省が作成した『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』では、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
上記の定義の具体例としては、例えば非接触決済を用いた新たな販売形態の模索や、AIを用いた製造工程の高度化、事務的な業務プロセスの自動処理化などが挙げられます。さらに、これまでオンプレミスで動作していたサーバのクラウド移行や、テレワーク環境の整備といったITインフラの高度化も、競争力の強化という観点でDXに含まれるといえます。
DXが注目されている理由
それでは、なぜDXに注目が集まっているのでしょうか。実はDXという言葉は2004年から存在するのですが、日本においては特に数年前からDXが注目されるようになりました。その背景には、2018年に経済産業省が作成した『DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』の存在があります。
このレポートは、日本企業のデジタル化の遅れを指摘し、このままでは他国と比較して競争力を確保できない状況になると警鐘を鳴らしました。このレポートを機に、国内でのDXの取り組みが加速することになりました。
もう一つの理由として、GAFAM(アメリカの五大デジタル企業:Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字をとった呼称)を中心としたデジタル企業のビジネス領域の拡大によって、既存のビジネス分野にまで影響が広がっているという危機感もあります。これまでもGAFAM等のデジタル企業は、出版業界や音楽業界といった様々な業界へ進出し、既存のビジネスモデルをデジタル化によって根底から覆し、既存企業のシェアを奪ってきました。現在も自動車業界や医薬品の分野など複数の業界への投資を続けており、既存企業は対抗すべく競争力の強化を目指しています。
■企業におけるDXの必要性と効果
なぜDXに取り組む必要があるのか
それでは、企業はなぜDXに取り組む必要があるのでしょうか。前述の経済産業省のレポートでは、特にレガシーシステム(導入から時間が経過して、最新技術とマッチしない旧来のシステム)への対応とデジタルを活用したビジネスの強化をポイントとして挙げています。
企業のレガシーシステムは継続的にメンテナンスするだけでも膨大なコストがかかります。特に大きな企業になればなるほど、システムの運用保守に高額なコストが必要となり、新規のシステム投資ができないレベルとなっています。企業はこのようなレガシーシステムを刷新して、固定費用のコストダウンを行い競争力を高める必要があることは明白です。必要性は明白なのに、簡単にDXがすすまない理由は後述します。
また、日常生活でのデジタル利用が一般化する中で、デジタルを活用しない旧来型のユーザー体験の価値が下がっています。例えば、若者にとっては、問い合わせ窓口に電話やファックスしかないのは不便であり、LINEやチャットボットでの問い合わせが好まれています。デジタルを活用しないビジネスは不便で使いづらい、不親切とみなされるようになっており、企業においては自社の顧客接点におけるプロセスをDX化することが求められています。
DXの効果
企業がDXを行うことで、ビジネスに新たな付加価値を付与をすることができますし、新しいビジネスモデルの構築や、既存ビジネスの改良、改善も実現できます。
付加価値の例を挙げると、例えば今では宅配物が届く前にメールで通知が届くのは当たり前になりました。また、スマホからタクシーを手配し、さらに何分後に到着するのかまで、わかるようにもなりました。配送やタクシーのような従来型のビジネスであっても、デジタルの力で価値を向上できるのです。このような取り組みを行えるケースは既存ビジネスの中にもまだ多く存在するでしょう。
さらに、DXによりコストを削減し、競争力を強化することができます。特に前述した維持コストのかかるレガシーシステムを利用し続けている企業は、DXによりシステムを最新化することのコストメリットは大きいです。
別の観点では、「先進的な取り組みを行っている企業」としてレピュテーション面でのメリットもあります。株主等のステークホルダーに対してはDXによる企業価値の向上をアピールすることもできます。顧客に対しては、自社サービスの提供を高度化することで、最先端の企業であるという印象を与えることができます。
■ DXの現状と課題
企業のDXへの取り組み状況
各企業のDXへの取り組みは、どの程度進んでいるのでしょうか。経済産業省が2020年に報告した「DXレポート2」によると、あまり取り組みが進んでいる状況とは言い難いようです。「DXへの取り組みが未着手である」、もしくは「一部での取り組みにとどまっている」といった企業が全体の95%を占めています。
大多数の日本企業がまだ本格的なDX化を初めていない状況ということは、これからDXに着手しても業界内でのトップランナーになれる可能性がある状況だとも言えます。
DXにおけるよくある課題
DXの推進には様々な課題があります。心理面、物理面両方の壁といってもよいでしょう。「DXレポート2」では、DXにおける課題として、デジタル人材の不足、経営層の危機感の欠如、事業部門側のオーナーシップの不足などが挙げられています。
DXを推進するためには、ITとビジネスを融合させる必要があります。つまり、IT部門と事業部門が協働し、全社的にDXを推進させる機運を高めないと取り組みが進みません。
また、担当者レベルの悩みとしては、「DXとは言うものの、具体的に何を取り組んだらよいのかわからない」という声もよく聞かれます。DXという概念は広範囲で抽象的なものであるため、具体的な取り組みが見えにくいという問題もあります。
課題の解決策は様々検討すべきですが、そのうち最も基本的な考え方として「DXの取り組みはスモールスタートを意識すること」が大切といえます。DXのように新しい取り組みは、どうしても賛同者が少なく、また失敗するリスクもあります。ですので、まずは小さい範囲で実現しやすいことをターゲットにDXの取り組みを行い、実績を積み、徐々に拡大していくことが肝要です。
■DXのファーストステップとなる取組例
最後に、DXのファーストステップとして取り組みやすい例を取り上げます。DXの取り組みとしては大きく、紙やハンコに代表されるようなアナログな業務をデジタル化する「デジタイゼーション」と、データを活用してビジネスや業務そのものを改革し、高度化、高付加価値化する「デジタライゼーション」の2つが存在します。まずはデジタイゼーションを進め、その後でデジタライゼーションを検討するとよいでしょう。
デジタイゼーションのファーストステップ
デジタイゼーションの例としてまず挙げられるのが、テレワーク環境の整備です。コロナ禍を背景にして、各企業におけるテレワーク環境の整備は一段と進んでいます。
ワークフローシステムやコミュニケーションツールの導入、Officeツール等のクラウド化による遠隔での業務環境の整備は、喫緊の課題であり、かつ生産性の向上につながる優先的に行うべき取り組みといえるでしょう。
また、RPA等を用いた業務プロセスのデジタル化はデジタイゼーションの取り組みやすい例の一つといえます。RPAとは、Robot Process Automationの略称であり、これまで手作業で行っていた処理を自動化するためのツールです。
業務プロセスのデジタル化に伴い、業務プロセスの改善も併せて検討できます。プロセスマイニングというツールを用いれば、既存の業務プロセスの無駄や不手際をコンピュータにより探すことができます。自動化によるコスト削減だけでなく、ミスの発生率を下げたり、業務プロセス改善を叶えるのです。これは、DXを推進する理由は一つでなくても良いという代表例だと言えるでしょう。
デジタライゼーションのファーストステップ
近年性能が向上し、注目されているAI関連技術は、デジタライゼーションへ活用することができます。DXですら近づきにくいキーワードなのに、AIというキーワードまで!と思われるかもしれませんが、実はAIこそが、DX化を進めるのに最適な技術だと言われています。
例えば、紙で申込書や申請書等を作成している企業はまだ多いと思います。しかし、紙に手書きで書かれた書類の集計作業には手間と時間がかかります。このような企業の場合、AIの画像認識の技術を用いて申込書を自動で読み取り、集計するのはいかがでしょうか?
アナログの申込書をデジタル化するだけでなく、そのデータをビジネスに活用する仕組み作りをするのがデジタル化の次のステップです。
文字の読み取りなど、画像を認識する技術はとくにAIの得意とするところです。すでにAIの性能は人間の持つ目を超えているとも言われており、実際にさまざまな現場で利用されています。例えば、機械の製造現場では、人によるキズなどの視認検査の代替として利用されています。食品工場においては、食材のサイズや痛み具合のチェックや、焼け具合にAIの画像認識技術が利用されています。
驚くべきことに、道路や護岸等の大規模な交通インフラの摩耗具合の検査にもAIによる画像認識技術が適用されつつあり、AIを利用することで、さまざまな業務の変革が既に始まっているのです。
■まとめ
この記事では、DXの定義やトレンド化の背景など、DXの概要について解説を行いました。以下で簡単に内容をまとめます。
- DXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
- DXは手段であり、目的ではない。目的はあくまでもビジネスの成功、成長。
- DXを推進するということは、自社の事業にデータとデジタル技術を活用すること。
- DXによってコスト削減できたり、既存の事業を改善して新しい顧客体験や付加価値を追加したり、新しいビジネスモデルを構築することができる。
- DXは自社のビジネスによるため、「●●業界のDXはこれ!」といった画一的な答えはない。
- 2020年に発表された経済産業省の調査では、95%の企業がDXにほぼ未着手の状況。
- DXが進まないのは、事業部門とIT部門の連携不足、DXを理解した人材の不足による。
いかがでしたでしょうか?
企業風土が千差万別であるように、企業のDXもまたしかりです。
この記事が、御社のDXを進めるための一助となれば幸いです。
DXを推進したい方、もう少しDXについての話を聞きたいとお考えの方は、
以下の営業統括本部にメールでご連絡をお願いいたします。
株式会社エム・フィールド
営業統括本部:mf_sm@m-field.co.jp
参照:
1: 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html
2: 経済産業省「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
3: 経済産業省「DXレポート2」https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html