はじめまして。エム・フィールドグループのbalconia株式会社でインターンをしている趙(チョウ)です。中国出身ですが、子供の頃から放課後にテレビで「ドラえもん」や「ウルトラマン」をはじめとする日本の番組を見つつ、友達と「ポケモン対戦」に没頭して育ち、4年前に海を渡って東京で留学生活をはじめました。
今回のインターンシップでは、Webを取り巻くメディアの特性を学びました。その上で、エム・フィールドのオウンドメディア「COLORS」のアクセス状況をGoogle Analyticsで確認し、COLORSの読者にどのようなコンテンツが喜ばれるのかを自分なりに考え、企画・校正・執筆まで担当しました。
今回の記事では、留学生の私が体感している「ローカライズ」の重要性を、みなさんにお伝えしたいと考えております。
■ローカライズとは?
localize
weblio 英和辞典・和英辞典
“地方に制限する、(…に)地方的特色を与える、(…を)地方化する、地方に分散させる”
ローカライズ=翻訳というイメージを持つ方もいらっしゃるとかもしれませんが、翻訳はローカライズの一部分にすぎません。「地方的特色を与える」、「地方化する」、つまり地方化する現地の言語、習慣、文化、そしてユーザーのニーズを反映してはじめてローカライズができたことになります。
■ローカライズの失敗例
私がローカライズに失敗しているな、と感じた実例をご紹介します。2013年にアメリカで制作されたSF映画『パシフィック・リム』をご覧になったことはありますか?海底から次々と現れる巨大な怪獣と兵士2人がペアで乗り込むロボットで戦う大作映画です。
この作品の中国語字幕では、必殺技の「エルボーロケット」(Elbow Rocket)が、
「ペガサス流星拳」と訳されました。みなさんは「ペガサス流星拳」をご存知でしょうか?日本の30〜50代の方はよくご存知かと思いますが、日本のアニメ・漫画で有名な「聖闘士星矢」に登場する技の名称です。
映画『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督は、日本の漫画やロボット、怪獣文化を尊重し、この映画を制作しました。中国版の翻訳者はそんな監督の思いを知ってか、日本のアニメ文化へのオマージュとして、『聖闘士星矢』でお馴染みの「ペガサス流星拳」を、技の名前に取り入れたようです。
しかし、この翻訳は中国の視聴者から大不評でした。その原因は、中国人視聴者の日本アニメに対する知識が少ないからではなく、むしろ真逆で、日本の怪獣・ロボット作品へのこだわりが強いからこそ、「ペガサス流星拳」というアニメ的な表現は、SFの世界観に相応しくないと受け取られたからです。
ちなみに、本作の日本語吹替え版では、「エルボーロケット」は日本のロボット・特撮作品で定番の必殺技である「ロケットパンチ」に変更されました。それについて日本で少し困惑する声も出ていたようですが、この翻訳の仕方は、日本の視聴者に対する「サービス」として捉えられたようで、中国語版の「ペガサス流星拳」ほどの不評に至らなかったそうです。
一つの英単語の訳し方であっても、その裏側には現地の習慣や文化が強く関連しています。オマージュ的な表現を選び、ファンの期待に答えようとする訳者の気持ち自体は素晴らしいことですが、ユーザー心理の理解が不十分だったため、結果的に独りよがりの行動と判断され、コンテンツ自体の評価が下がってしまったことはとても残念です。
すべての人を満足させることは難しいですが、ユーザーの文化的な背景にまで考えを巡らせることは、ローカライズの第一歩だと思います。
■ローカライズの成功例
次に、ローカライズの成功例をご紹介します。世界中で圧倒的な人気を集める『ポケットモンスター』は、中華圏でも当然多くのファンに愛されています。1998年からポケモン商品の中国展開はスタートしていましたが、2000年に中国が家庭用ゲーム機器の販売を禁止したことで、日本語版と英語版のゲームが台湾と香港でのみで販売されていた状況でした。
2014年に上海の「自由貿易区」に限ってゲーム機の製造・販売が許可されると、2014年8月に一人のポケットモンスター愛好者の発案によって「Pokémon 游戏中文化请愿书」(ポケモンゲーム中国語化請願プロジェクト)が立ち上がり、瞬く間に約3万人の署名が集まり、同年8月にアメリカのワシントンで開催された「ポケモンワールドチャンピオンシップス」の際に、代表者がポケモンゲームの中国語化の嘆願書をポケモンのプロデューサーに手渡したそうです。
みんなの声が届いたのでしょうか。不安と期待が混じった約1年半後、2016年2月に公開された「ポケモンダイレクト」(任天堂のポケモン情報を伝える動画配信コンテンツ)で、2016年冬に発売される『ポケットモンスター サン&ムーン』から、中国語(簡体字/繫体字)が追加されることが発表され、中華圏ファンの長年の夢が叶いました。
ポケモンの中国語版の実現は、ポケモン自体の魅力と潜在ユーザーがあってのことですが、海外ユーザーのニーズをきちんと把握し、未知の海外市場から新たなチャンスを引き出すことは容易なことではなかったと思います。しかし、ポケモンはゲームに中国語を取り入れることで、ファンの「利便性」を高め、より多くのファンを集めた、ローカライズの成功例だと思います。
■やっぱり「お客様視点」が一番大事!
「利便性」は、商品の中身に限らず、購入体験のローカライズにも強く関連しています。あるオンラインストアが全世界に向けて販売するデジタルコンテンツを「日本語/英語」と「中国語/韓国語」の2つの言語バージョンで制作して販売した例を見てみましょう。
そのオンラインストアでは、アジア圏のユーザーがコンテンツを購入する際のデフォルト言語を「中国語/韓国語」に設定して販売を開始しました。しかし、アジア圏全体では、中国語と韓国語が全くわからないユーザーの方がむしろ多いのではないでしょうか?
企業側は、クリック一つで購入できるユーザーの利便性を優先したつもりかもしれませんが、待ちかねた商品を購入したものの、誤って別の言語バージョンを買ってしまい、中身が全然読めなかったとしたら、ユーザーの購入体験は大幅に下がってしまうでしょう。
このようなトラブルを避け、ユーザーとの信頼関係を構築するには、常に現地の実態に基づいてユザーとのコミュニケーションを設計する必要があります。
海外のユーザー(お客様)との信頼関係を構築している例として、Shopifyを使って日本のアニメやゲーム関連の商材を海外向けに販売し、約10年で売上を数十倍に成長させた「Solaris Japan」のインタビューをご紹介します。
参照:「越境ECでは分かりやすさが大事!」グローバル販売で成功するために必要なこととは!?-Shopify ブログ https://www.shopify.jp/blog/success-story-solarisjapan
「Solaris Japan」のECサイトは、海外のお客様が安心して購入できるように、すべての商品ページに「発送方法と送料」を表示しているそうです。海外から購入するお客様の視点に立つと、この二つの情報はとても大事です。たとえお気に入りの品を日本から直接安価で購入できても、送料を含めたら想定外に高額になる場合もありますし、安価な送料でも商品が手元に届くまでに何ヶ月も待たされるようでは、購入する気にならないでしょう。さらに「Solaris Japan」では、お客様の支払いに関する不安を払拭するために、世界中で信用度が高いペイパル経由の支払い方法を採用した結果、現在では売上の半分はペイパルで決済されているそうです。
グローバルで信頼されるネットショップを作るには、対応言語を正確に表示させることは当然重要ですが、お客様の不安に寄り添い、現地のニーズや決済習慣と合わせて考えることはさらに深層的、かつ大事なポイントではないでしょうか。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?まだ拙い一介の学生の視点ですが、私自身が中国と日本の生活を体験して、日々実感している「ローカライズ」について考え方をまとめました。失敗例から学び、そして成功例を目指す――大事なポイントは現地のお客様に対する思いやりを持ち、安心感と信頼感を作ることです。みなさんのビジネスの新たなる航海を、お客様視点にたったローカライズに基づいて挑戦してみたら、新しい海域を発見できるかもしれません。
海外マーケティングをする際に、balconiaがさらに「ブランド・カルチャライズ」を大事にしています。ブランド・カルチャライズは、単なるブランドの「表現」を翻訳するのではなく、その本質的な「意味」を現地化して消費者との信頼関係築くことを意味し、ローカライズのさらなるアップデートとも言えます。もし今回の記事でローカライズの事情やbalconiaの「ブランド・カルチャライズ」にご興味がありましたら、こちらの記事と合わせてご一読いただければ幸いです。
参照:郷に入っては郷に従え。ブランド・カルチャライズの重要性 -balconiaブログ
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